
ボスキャラを担当しました。
テレビゲームで戦闘を進めていくと、ステージの最後にでっかくて迫力のある敵が登場します。それが「ボスキャラ」です。ゲームの中でも特別な存在感を醸し出し、シリーズの絶対的な強者として主人公達の前に立ちふさがる。物語の中でも勝敗を決定付けるかなり重要なキャラクターです。そんな重要な「ボスキャラ」をデザインする機会に恵まれました。
「超速変形ジャイロゼッター」という筐体ゲームでのお話です。矢薙はこの筐体ゲームにメカデザイナーとして参加しておりました。
◆
車のロボット・ジャイロゼッターが戦う相手は、基本的に同じサイズのジャイロゼッターです。ただし、一定確率で巨大な「ボスキャラ」が登場して、特別感のあるステージ、特別感のある演出で、自機と攻防を繰り広げることになります。
アーケード第0弾では「巨竜型重機ドラグノス」が登場。ドラゴンのような形をした巨大ジャイロゼッターで、クレーン車やショベルカーなど、重機をモチーフにした強力な「ボスキャラ」でした。デザインは渭原敏明氏。メカニカルな中にもド迫力なドラゴンの異様を備えた素晴らしいデザインでした。
そして第2弾のボスキャラを矢薙が任されることになったのです。一体、如何なる車両をモチーフにするボスなんだろうか!!
そのモチーフは「戦艦」でした。
え?船?
自動車ロボットのバトルゲームなので、また車関係のモチーフが来るのかと思っていましたが、意外なところからのチョイスでビックリ。ボスに限っては様々な乗り物を採用するとのことで、ボスならではのそのイカした設定に感心いたしました。
発注されたお題はこちら
- クラーケン型ボスロボット(ゼノン製)
- 戦艦モチーフ
- 通常ロボの3倍のサイズ感
- 背中や肩などに砲台
- うねうね動く触手
自動車タイプのロボットだけのお仕事かと思っていましたが、まさか「巨大戦艦ロボ」をデザインすることができるだなんて思ってもみませんでした!
◆
今回は、そんな巨神戦艦型ジャイロゼッター「グレートクラーケン」のデザインの裏話です。
おりもおり。巷では、相変わらず「艦隊これくしょん」が人気を博し、Wiiの「スプラトゥーン」ではイカみたいな娘が大人気というナイスタイミングでのネタになりますw
戦艦とイカの擬人化ならぬ擬ボット化。このジャイロゼッターは如何にしてデザインされたのか?
秘密結社「ゼノン」が開発した戦艦型ジャイロゼッター。
戦艦といってもいろいろありますが、どのような戦艦でも構わないとのオーダーでした。西洋のモンスター「クラーケン」がモチーフということで、大和や武蔵などの和製戦艦とはならず、おのずと世界大戦で活躍したアメリカあたりの戦艦をチョイスすることにしました。資料的にはアイオワ級戦艦あたりを参考にしていたと思います。
最初のボスキャラ「ドラグノス」のデザインはすでに出来上がっていたので、参考資料としていただいていました。こちらは巨大な西洋竜のスタイルなので縦長三角形の脚部にボリュームのあるシルエット。それとの差別化を図る意味で、上半身にボリュームを持ってきつつ横長なシルエットでまとめました。
流石に、このサイズになると変形ギミックを意識することもないだろうと・・・戦艦の艦首を三つくっつけた構造にしています。合わせて肩に艦砲をそのまま備えることで戦艦らしさを強調。三つの砲門が任意に動く事によって、肩に表情がつくことも計算に入れていました。
「クラーケン」という事で、併せていただいた資料は映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」に出ていたデイビィ・ジョーンズ。
いかんせん映画を観ていないので詳細は知りませんが(^^;、海賊で烏賊面の船長のようです。その海賊らしさの要素も戴いてしまおうと、頭部の船首を海賊ハットに見立てています。バルバス・バウ(船首に設けた球状の突起)と、錨(アンカー)を正面に見せることができるので、戦艦らしさを強調する効果的な配置となりました。
途中で、普通の海のモンスターモチーフだけではインパクトがないなと感じ、海の神様ポセイドンのイメージも引っ掛けてまいりました。神々しさを加えることで迫力が出るのではないかと思ったわけです。そこで生まれたのが、表情の変形アイデア。
ポセイドンの石像風な頭部。実はこれはダミーで、展開すると魔物のような巨大な眼が出現し、邪神クトゥルフの如き名状しがたい正体が現れるという。そんな ギミックを提案してみたところ気に入ったいただけました。ゲームの中では「グレートバンカーチャージ」の際に、その姿を拝むことができます。
武器のクラーケンアックスもポセイドンの「三叉の矛(トライデント)」をイメージしています。デザインにややイカらしさを加えて、シンプルではありますが生っぽい印象にしてバランスをとりました。
触手部分は、モデリングとモーションの都合もあるだろうと、かなり細かいところまで技術的なレベルを確認しておりました。
最終的に、大きめなサイズのものを4本背面に装備。背面図を見ていただくと、背中ではなく、頭部のパーツにくっついています。実は、たまたまその時期に放送されていたイカの女の子が主人公のアニメーションを観て、イカの意匠の取り込み方の参考にしておりましたw 気分的に「イカ娘のお父さん」をイメージしつつデザインしていたのでパーツ配置は意外にそっくり。
・・・でもないですね。
構造図。各パーツがどのようにつながっているのかを多少なりともわかりやすく見せるための図。
◆
こちらはラフ画稿です。全体的に要素が多く、ゴチャゴチャしていますがグレートクラーケンの主だった特徴はすべて出し切っていますね。腕に機銃、肩にイカの目玉、拳がアンカーになってるのが面白いですね。
上記のラフを受けての、第一稿。
ギミック的な物を検討しつつ、ほぼほぼ構造は仕上がりつつあります。顔のサイズが小さすぎるので、次稿では大きく修正してあります。全体的な体躯のバランスの違いもわかると思います。武装の指定は受けていなかったのですが、件のポセイドン要素を入れたこともあり・・・この時点でトライデントは如何でしょうか?とお伺いを立てております。
全身、軍艦色のグレーで検討しておりましたが・・・あまりにもメカメカしさが際立つのはいかががなものかと・・・思い切って下半身を濃い目のターコイズブルーで塗りつぶすことにしました。するといい感じに海洋生物っぽさが引き立ち、半身の触手も強調できて、カラーリングとしてかなり納得できた仕上がりになりました。
◆
このグレートクラーケン、矢薙デザインの中では比較的に線が多めで形状把握しにくいかもと懸念していました。イカらしさの表現のためとはいえ、全身に穴ボコが無数に開いているので、モデリングスタッフさんに煙たがられないかと内心ヒヤヒヤしていました。
実は、クラーケンはコミック版(確か4巻だったかな?)にも登場したことがあるんですね。その際にtwitterで著者の水野輝昭先生とお話できる機会がありました。クラーケンをでかでかと丁寧に描いていただき感動した旨を伝えたのですが、そんな矢薙に水野先生はこう仰りました。
「矢薙さんのデザインされたジャイロゼッターは僕の中でとても描きやすいので助かってます」
日頃からその辺りを意識して、自分以外の方にわかりやすくて描きやすいメカデザインを心がけていました。実のところ現場ではどうなのか全然わからなかったのですが・・・。プロの漫画家さんがそう答えてくれたことに、とてもホッとした思い出がございます。
水野先生、その節は素敵なお言葉ありがとうございました。